電子たばこ販売禁止策は本当の問題をけむに巻くだけ(Newsweek日本語版)

2019年9月27日(金)15時50分ジェレミー・ファウスト(ブリガム・アンド・ウイメンズ病院救急医)

<呼吸器系の疾患や死亡例が増加しているとしてトランプが打ち出した対策は全くのお門違い>

トランプ米大統領は9月11日、電子たばこを吸ったことによる肺疾患や死亡例が国内で急増しているとして、味や香りの付いた電子たばこの販売を禁止する方針を発表した。電子たばこニコチンや香りの成分を含む液体などを電気による加熱で蒸発させて吸うもので、アメリカでは若者を中心に急速に広がりを見せている。

トランプが理由の1つとして挙げたのは、メラニア夫人が息子のバロンや同年代の若者に電子たばこが与える影響を憂慮しているというものだ。

しかし、これには問題がある。いま増加している呼吸器系の症例の原因とされるのは、電子たばこそのものではない。元凶とみられるのは、大麻の有効成分が使われる製品に含まれ吸引すると有害なビタミンE酢酸エステルや、非合法製品に混入したその他の物質だ。

今の状況で電子たばこを禁止するのは、あるレタス農場で大腸菌が大発生したからといって、全米でチーズバーガーの販売を禁止するようなもの。何か対策を講じている気になるが、実際は何の役にも立たない。

ところが私のソーシャルメディアのフィードには、禁止措置を歓迎する医師や公衆衛生の専門家の投稿があふれた。同業者の多くは、電子たばこに反対している。10代の若者を引き付けるように見えるからだ。

私も同様に、電子たばこは厄介な存在であり、医療目的以外の化学物質を肺に吸い込むのはよくないと考えている。特に未成年者はニコチンが含まれている電子たばこを吸うべきではない。ニコチンは発達過程の脳に悪影響を及ぼす恐れがある。だからこそ電子たばこの関連企業が未成年者に製品を売り込んだ場合は、厳しく罰するべきだ。

非合法製品に手を出す?

それでも私は、ある面では電子たばこを擁護せずにはいられない。禁煙に失敗するなどして今も喫煙を続けている大人の場合、癌を引き起こす従来のたばこや、かみたばこに戻るよりは、電子たばこを使ったほうがはるかに安全だ。もちろん何も吸わないに越したことはないのだが、我慢できない人にとっては電子たばこが最善の方法だろう。

しかも、いま増加している症例への対策として電子たばこを禁止すれば、未成年者に悪影響を及ぼす可能性がある。

そもそも18歳あるいは21歳(州によって異なる)未満への電子たばこの販売は、既に禁止されている。電子たばこの販売を禁じれば、利用者はいくらか減り、長期的に見てプラスにはなるだろう。だが代わりに非合法の製品を買い求める人が増え、そうなればいま起きている問題についてはかえってマイナスだ。そうした製品にはたいてい、直ちに命を脅かすような物質が混入しているとみられ、そこに本当のリスクがある。

従来のたばこが原因と考えられる死者は、今も全米で年間約48万人。一方、電子たばこに関係した肺疾患による死者はきっかり6人だ。

もちろん長期的に見て、電子たばこが従来のたばこをやめるためのものではなく、喫煙への入り口になるようであれば、この数字も別の見方をしなくてはならない。電子たばこ自体が死を招く大きな要因だと分かれば、なおさらのことだ。

だが今のところ電子たばこ禁止策は、目の前にある現実の問題をやり過ごし、世間の関心を集めそうな別の問題に手を出す政治家のポーズとしか思えない。アメリカの健康リスク評価は、あまりにお粗末だ。

©2019 The Slate Group

<本誌2019年10月1日号掲載>

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