電子タバコによる呼吸器疾患の謎が一部解明される

Point

電子タバコによる呼吸器疾患を患った患者の肺の中から、脂質分を貧食したマクロファージ(lipid-laden macrophage)が発見された

電子タバコによる呼吸器疾患はリポイド肺炎に類似しているが、異なる点もあり同一と断定することはできない

■lipid-laden macrophageに含まれる成分と電子タバコのリキッドに含まれる成分との関係性が、症状を引き起こしている可能性も

油滴るマクロファージ

肺に不調を感じた電子タバコユーザーがまず医者に訴えるのは、乾いた咳、胸の痛み、息切れです。加えて、腹痛、吐き気、嘔吐や、時には、発熱、全身の痛み、大量の寝汗を生じる場合もあります。

患者は酸素の吸引などによる補助ケアを受け、症状が深刻な時は抗炎症ステロイドの処方を受けます。症状が軽い場合は5〜7日間ほどで改善しますが、症状が重い場合には回復に数週間を要することもあります。深刻化すると、集中治療室で生命維持装置が必要になる場合もあります。

患者の肺を映したレントゲン写真はまるでウイルス性や細菌性の肺炎のように見えますが、実際にテストしてみると陰性と出ます。そこで、これまでは、類似した呼吸器疾患のすでに知られている原因が見つからないことと、電子タバコの喫煙歴があることを組み合わせて、診断する他ありませんでした。

アベレッグ氏らは、ソルトレイクシティ大学病院に通う患者6名のうち、全員からlipid-laden macrophageを特定しました。これらの細胞は、肺の小さな部分に噴出させた液体を回収して調べる「気管支肺胞洗浄」という処置を施したサンプルの中から見つかりました。

マクロファージは、炎症が起きている箇所に集まって、そのがれきを回収する役割を持つ免疫細胞の一種です。オイルレッドOと呼ばれる染色液に漬けたところ、これらの細胞から油の滴が染み出している様子が観察されました。

電子タバコを喫煙する患者の肺から見つかったlipid-laden macrophage / Credit: Andrew Hansen, MD, Jordan Valley Medical Center

そう頻繁に見られるものではないマイクロファージが存在するということは、何らかの理由があるはずです。アベレッグ氏は、「電子タバコによって肺の中に侵入したがれきを、マクロファージが掃除しているのだろうか?」と考えました。

リポイド肺炎に似ているけれど…

アベレッグ氏らが最初に調べた患者は、リポイド肺炎(lipid-laden macrophageが肺胞腔内に出現することを特徴とする肺炎)と診断された21歳の男性でした。この肺炎は、スクリーニング検査で診断されます。

そこで、電子タバコによる呼吸器疾患が疑われる他の患者5名にも同様のスクリーニング検査を行ったところ、全員が陽性であることが明らかになりました。論文の出版後も、症例は10例にまで増えたそうで、新しいケースが週次で更新され続けています。

とはいえ、電子タバコによる呼吸器疾患がリポイド肺炎の一種であるかどうかについては、疑問が残ります。2つの症状は似ている一方で、違いもあるからです。

No Smoking と並ぶ No Vapingの表示 / Credit: Wikimedia Commons/Mike Mozart

電子タバコによる呼吸器疾患と異なり、リポイド肺炎は、油分ベースの便秘薬などを誤って肺に吸い込んだ高齢者によく見られます。また、典型的なリポイド肺炎と電子タバコによる呼吸器疾患は、レントゲン画像の見え方も違います。

アベレッグ氏は、lipid-laden macrophageが電子タバコによる呼吸器疾患を発症した患者に特有のものなのか、それとも症状を持たない電子タバコユーザーにも見られるものなのかを調べる必要があると考えています。

もし前者の肺にしかこの細胞が見られないのだとすれば、lipid-laden macrophageに含まれる成分と、電子タバコのリキッドに含まれる成分との関係性が、症状を引き起こしている可能性があります。

通常の紙巻きタバコに代わる代替品として人気が高まる電子タバコ。タールやニコチンを含まないという点ばかりが注目されがちですが、その裏に潜む弊害についても、今後明らかになってくるかもしれません。

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