たばこは「不必要な悪」なのか

[ロンドン 2日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 彼らは、株主価値の信奉者にとっては恥であり、政府にとっては厄介者であり、公衆衛生にとっては軽い脅威であり、さらには、反資本主義体制派にとっては天のたまものである。利益の最大化を追求するたばこ企業は「不必要な悪」と言える。

問題は、米公衆衛生局長官が1964年に初めて公式に喫煙は有害だと宣言してから明らかだ。それから50年以上、たばこ大手各社は、そうした事実に異議を唱えたり、販売が伸びている国で事業を拡大したり、新商品を開発して多様化したり、競合他社と合併したりするなど多くの戦略的対応を試みてきた。最近では、英たばこ大手ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)(BATS.L)による米レイノルズ・アメリカンの完全買収が先週に完了したばかりである。

たばこ業界のアプローチの仕方は2つある。1つは、当局と協力することだ。BATは米食品医薬品局(FDA)が先週発表した、たばこのニコチン含有量の水準を下げる計画に盾突いてはいない。株主の反響をよそに、BATは、FDAが「たばこ製品にとってのリスクの継続性」を認識したことに「勇気づけられた」としている。1日には、アフリカで、喫煙規制を避けるために渡したとされる贈賄容疑を巡る英当局の捜査に、全面協力すると約束した。

2つ目は稼ぎまくることだ。各国政府の消費税を除いたBATの営業利益率は37%という驚異的な数字をたたき出している。これは例外ではない。米国でマルボロを製造する米アルトリア・グループ(MO.N)の営業利益率はそれをさらに上回る47%である。

こうした企業がそれほど資金を必要としていないのは明白だ。たばこ製造は世界的にほとんど伸びておらず、先進国市場でも年間約2.5%減少しており、投資は自然と縮小していくだろう。BATが2016年に投じた6億5200万ポンド(約942億円)の設備投資は、約31億ポンドのキャッシュを出資者にもたらした。そのうち、株主は約26億ポンドを得る資格がある。

したがって、BATと系列会社がばく大な株主価値をもたらしていることは間違いない。だが、たばこ業界では、株主価値は社会的価値と直接対立する。もしたばこ会社が、自社製品の使用により健康が害された年月に対して全面的に補償するのであれば、投資家の手元には何も残らない。たばこ会社の株主に社会的良心があるなら、自身が利益を得ることは避けるだろう。

株式投資家に利益を還元するためだけに企業が存在するというのは、ビジネスのあり方として、どう見ても間違った考え方である。会社が表明する使命が公益と直接ぶつかるという最悪のコンセプトを、たばこ業界は示している。

たばこ業界は長年、株主価値を追求するためには、喫煙を減らそうとする政府の取り組みに抵抗せざるを得ないと考えてきた。今も政府の行く手を阻んでいる。利益を追い求める業界との集中審議がおそらく、喫煙者に現在の習慣をやめさせるには電子たばこが有益な方法だとFDAを説得するうえで、役割を果たしてきたと言えるだろう。喫煙削減に熱心に取り組む業界なら、このようにマイルドで、より安全と思われているタイプのたばこを奨励したりはしないだろう。

このことは、利益に飢えたたばこ業界が、資本主義の悪しき形態をおおざっぱに体現しているということを示しているわけではない。とはいえ、いくつかの見えにくい欠陥を露呈している。つまりそれは、やるべきことはやっていると信じて疑わない企業経営者や株主、業界にとらわれているというよりむしろ流されている規制当局者、そして自らを害する合法的機会にあまりに多く恵まれている一般市民である。

では、どうしたらシステム上のこの汚点をぬぐい去ることができるのだろうか。

国営化は1つの道だろう。多くの国において、過去数十年にわたり民営化されていたたばこ産業を単に国営に戻すというものだ。世界銀行の調査によれば、民営化により、健康を害するたばこの生産量が増加することが多かった。ただ、国家管理による非効率が歓迎されるかもしれない一方で、高い消費税がもたらす歳入の魅力は、たばこ撲滅への取り組みを鈍らせることになるのがオチだ。

もっとましなアイデアは、秩序ある削減という目的にかなう会社組織をつくることだ。企業経営者は、購入意欲をそぐには十分高いが、違法な製品に向かわせない程度には低い価格を設定することで報酬を受ける。収益は準税金として扱われ、政府に回される。企業は徐々に自社製品の供給を減らすことが期待される。また、たばこの代替品に投資するよりも、たばこ農家が代わりの農作物を見つける支援に投資する。

こうした「減産企業」には法的な真新しさがある。資本主義は新たなチャレンジに対処する能力で知られる。しかしながら、そこに至るのは生易しいことではない。こんにちの株主は結果を求めるからだ。

政府は移行を支援することが可能だろう。正当な価格を支払い、たばこ会社の現地子会社を国営化し、新たな形態で会社を再編するのだ。新会社が株主ではなく政府に送るキャッシュは、確実に納税者がツケを払わされることがないようにするだろう。

たばこ減産会社は何十年も前に誕生しているべきだった。そうであれば、喫煙の終わりを加速させていただろう。だが、まだ遅くはない。煙のように立ち消えにしてしまってはいけない。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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