子ども「受動喫煙条例案」報道が「加熱式タバコ」に触れない理由

(写真:ロイター/アフロ)

 9月20日、東京都議会の定例会に最大会派の都民ファーストの会(以下、都ファ)と、第二会派の公明党が、全国の都道府県で初めて子どもの受動喫煙を防ぐための「子どもを受動喫煙から守る条例案」を提出した。

 この前後、大手報道各社はこれを報じているが、その内容の多くは子どもに特化したことや、行政が家庭へ踏み込むことを危惧するものに限られ、ある「重要な条項」に不自然に触れていない記事がほとんどだ。

意見公募では賛否半々

今回の条例案提出にあたり、都ファと公明党はそれぞれ一般から広く意見を募った(パブリックコメント、8月30日~9月8日)。都ファの岡本こうき都議によると、約470件の意見が集まり、賛成・反対が約4割ずつだった。

賛成の内容は「子どもに妊婦と胎児を含めて欲しい」という意見が多かったそうだ。また、今回の条例案には罰則規定はないが「罰則をもうけたらどうか」、千代田区のように「路上喫煙も取り締まるべき」といった意見もあった。

反対の内容では「家庭内に規制をかければベランダ喫煙が増えるから反対」といったもの、また「家庭内にまで踏み込むのはどうか」といった疑問の意見があった。岡本都議によれば、反対意見には組織票のようなコピペも目立ったらしい。

都ファと公明党は8月29日に共同で記者会見を開き、今回の条例案を発表したが、その後、関係団体などから意見聴取し、パブコメの内容などを参考に条例案に修正を加えている。

 主な修正点は、子どもが同乗した自動車内での喫煙について、家庭内より厳しい表現だったものを同じ努力義務にした、「受動喫煙防止の措置が講じられていない飲食店、ゲームセンター、カラオケボックスなどに子供を立ち入らせない」の部分で施設名の表記を削除した、などだ。

加熱式タバコの記載に反応したJT

さて、今回の条例案にある「重要な条項」とはいったい何だろうか。そして、なぜ各社報道記事ではそれにほとんど触れていないのだろうか(東京新聞などを除く)。

その部分は条例案の喫煙の定義にある「たばこに火をつけ、又はこれを加熱し、その煙を発生させることをいう」という文言だ(太字強調筆者)。つまり、加熱式タバコを吸うことも喫煙の定義に入れているのである。

岡本都議によれば、この表記について「加熱式タバコを加えるかどうか、条例案に関わった都議らの間でも議論があった」と言う。

だが、今回の条例案と別に東京都が制定を目指している受動喫煙防止条例で加熱式タバコを含んでいることもあり、また「加熱式タバコの有害性は明かで根拠がある」とし、文言を残した。「加熱式タバコを除外すれば、極端な話、病院内でも加熱式タバコを吸えるようになってしまう」(岡本都議)という理由も大きい。

加熱式タバコを条例案に含むという内容については、意見公募の締め切りである9月8日にいち早くJT(日本たばこ産業)が反応を示している。主要報道各社が触れなかったのとは対照的だ。

JTはそのHPにある「たばこ対策等に関するJTの考え方」の中で「『東京都子どもを受動喫煙から守る条例(案)』について」というコメントを出している。

加熱式タバコに対するJTの意見として「受動喫煙の健康への影響について、たばこ葉を燃やすたばこ製品と加熱式たばことは異なるものと考えています」とし、JTのプルーム・テックからは紙巻きタバコの煙に含まれる健康懸念物質はほとんど出ない、と主張している。

 そして、喫煙の定義から「これを加熱し」との記載は削除されるべき、と要望している。また、受動喫煙について「研究は総じて少なく、また人への健康影響に関する疫学及び医学的な研究も存在しないものと承知しています」とし、「受動喫煙の定義から『残留するたばこの臭気その他の排出物』との記載は削除されるべきと考えます」としている。

タバコ企業の広告出稿は「条約違反」

ところで、塩崎恭久・前厚労大臣は、ネット上で放送されたインタビュー番組(※1)の中で、JTのテレビCMについて「事実上タバコの宣伝と同じです。これは条約違反と言わざるを得ません」と発言した。このように、JTなどのタバコ企業は、我国も加盟する「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO FCTC)のガイドラインに違反し、報道各社媒体への広告出稿や各種イベントへのスポンサードを続けている。

今回の条例案に対し、JTが素早く反応して加熱式タバコを「擁護」したことは象徴的だ。

加熱式タバコは大人気で品薄状態が続いている。世界最大のタバコ企業であるフィリップ・モリス・インターナショナル社は、将来的に紙巻きタバコから完全に加熱式タバコへシフトすると表明している。加熱式タバコへのネガティブなイメージは極力避けたいところだろう。

以下は筆者の想像だが、今回の「子どもを受動喫煙から守る条例案」に対し、報道各社は影響力が少なくないクライアントであるJTに「忖度」し、記事中には加熱式タバコを入れないようにしたのではないだろうか。

今でも大手新聞に大きくタバコのパッケージを映した公告が出るくらいだ。情報雑誌などをみれば、ほとんどJTや海外のタバコ企業の広告で埋まっていたりする。おそらく、これら広告主がなければ、雑誌が存続できないのだろう。

以上が筆者の邪推であればいいのだが、加熱式タバコについてはまだ科学的エビデンスが定まっていないのも事実だ。だが、少しずつ加熱式タバコや電子タバコ健康被害に対する研究も出てきている。タバコに限らず、子どもは長く被爆する。被害者が出てからでは遅いのだ。

石田雅彦フリーランスライター、編集者

北海道生まれ、医科学修士(MMSc)、横浜市立大学・共同研究員(循環制御医学教室)。近代映画社を経て独立、醍醐味エンタープライズ(編プロ)代表。ネットメディア編集長、紙媒体の商業誌編集長など経験あり。個人としては自然科学から社会科学まで多様な著述活動を行っている。法政大学経済学部・横浜市立大学大学院医学研究科卒。著書に『恐竜大接近』(集英社、監修:小畠郁生)、『遺伝子・ゲノム最前線』(扶桑社、監修:和田昭允)、『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』(ポプラ社)、『季節の実用語』(アカシック)、『プレミアム戸建賃貸資産活用術』(ダイヤモンド社)、『おんな城主 井伊直虎』(アスペクト)など。

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