電子たばこ関連疾患で死の淵に…22歳の生還者が語る米社会問題

【1月24日 AFP】米ニューヨーク在住のグレゴリー・ロドリゲス(Gregory Rodriguez)さん(22)は昨年9月、高熱と嘔吐(おうと)、下痢の症状を訴え、病院の救急外来を受診した。当初は何らかの感染症に罹患(りかん)したと考えていた。

 病院を受診した2日後、ロドリゲスさんは意識不明の状態となり人工心肺装置につながれた。そして両肺の移植手術を受けるために待機することも決まった。

 死の一歩手前で踏みとどまった経験から2か月後、ロドリゲスさんはAFPの取材に応じ、「電子たばこの利用で病気になるとは考えもしなかった」と語った。

 医師らは、電子たばこをひっきりなしに利用していたことが問題を引き起こしたと考えている。ただ、ロドリゲスさんが住むクイーンズ(Queens)区ジャマイカ(Jamaica)にある病院の救急外来では、すぐに電子たばことの関連性が指摘されなかった。電子たばこによる健康被害が広がり始めた昨年の夏には、感染症と診断され、抗生物質が処方されるだけのケースが目立っていたが、ロドリゲスさんの場合もこれとまったく同じだった。

 ロドリゲスさんは一度目の受診後、今度は呼吸困難に陥り、病院を再度受診した。この時初めて、電子たばこの器具を使って大麻を2年間吸引していたことを認めた。

「初めは伝えることをためらった。THC(テトラヒドロカンナビノール、大麻に含まれる精神活性物質)はニューヨーク州では今も違法だから」

 ロドリゲスさんの容体はその後に急変した。人工呼吸器が装着されたが、これは役に立たなかった。左右の肺にカスタードのような粘度の高い物質がびっしりと張り付いていて、これによりひどい炎症が起き、血流に酸素が送り込めない状態となっていたのだ。

 治療に当たった医療機関グループ「ノースウェル・ヘルス(Northwell Health)」の救命医療地域責任者であるマンガラ・ナラシンハン(Mangala Narasimhan)医師は、ロドリゲスさんが当時、死の淵をさまよっていたと話す。

■「薬物中毒とは言いたくないが…」

 治療では、体外式模型人工肺(ECMO)が最終手段として使われた。患者の体内から血液を抜き取り、酸素化して血管に再注入するための機械だ。

 ロドリゲスさんは3日間、意図的に昏睡状態に置かれた。治療中に苦しい思いをしないための配慮だ。そしてECMOが機能している間に両肺とも回復し、一命を取り留めることができた。肺移植の必要もなくなった。

 ロドリゲスさんの入院期間はわずか12日だった。同様の症状で入院した他の患者に比べるとその期間は比較的短い。だが、状態としては最も深刻な例の一つだった。入院先のロングアイランド・ユダヤ人医療センター(Long Island Jewish Medical Center)では、同程度に深刻な患者は40人中5人しかいないという。

 米国では昨年11月までに、電子たばこの利用に関連して47人が死亡している。また電子たばこに関係する疾患は、世界で2290例報告されている。

 電子たばこの使用に関連した肺疾患が広がっている問題について米当局は昨年11月、THCのリキッドに含まれる添加物の一つ「ビタミンEアセテート」が原因だと発表している。

 また国連(UN)の世界保健機関(WHO)は今週、電子たばこが使用者だけでなく、電子たばこから出る蒸気にさらされる第三者にも害を及ぼすとの見解を示している。電子たばこが喫煙者の禁煙を助けると主張するのに十分な証拠はないが、その利用が安全でないことを示す明らかな証拠はあるとの考えを報告書にまとめた。

 退院から2か月が経ち、ロドリゲスさんは慢性的な呼吸困難からは解放された。だが、担当医によると肺活量は基準値の60%ほどに低下していたという。

 本人は、「身体的には問題ないように感じるが、精神的に回復するまでにはしばらくかかりそうだ」と語り、現在はマリフアナに対する欲求があって「薬物中毒とは言いたくないが、そのことを考えてしまう日もある」と打ち明けた。

ロドリゲスさんが使っていたTHCカートリッジの価格は16ドル(約1750円)だった。ダークウェブの業者から25個入りのセットを購入し、支払いにはビットコイン(Bitcoin)を利用していた。手間のかかる入手方法だったが、ニューヨークの売人から買うと1個40ドル(約4400円)と高額であるため、この方法での入手が最も経済的なのだという。

 そして、2018年夏にうつ病を患った時は喫煙量が増え、2日でカートリッジを使ってしまったと話す。

 ロドリゲスさんは、「THCは合法ではないので、闇市場での取引に頼る必要がある」と述べ、「合法化されれば、政府が管理する薬局で購入すればいい。今よりはるかに安全だ」と続けた。

 ただ、現実はもっと複雑だ。マリフアナが合法化されている州では高い税率が掛けられているため、闇市場よりも高額で売られているのだ。

 一方、米国でのマリフアナの規制に関しては、ピンポイントでその矛盾点を指摘している。若者の電子たばこの利用を防ぐことを目的とした風味(フレーバー)付き製品の連邦当局の規制に関する指摘だ。

 THCを含む電子たばこ製品が州で合法とされている場合、いくら連邦法でマリフアナが禁じられていても、当局はこれを規制することができない。

 こうした状況についてロドリゲスさんは、風味付き電子たばこだけを禁止しても「何も変わらない」と話し、実害を及ぼしているのがTHCを含む製品であることを強調した。(c)AFP/Ivan Couronne

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