電子タバコに関する最新研究(Yahooニュース)

(Yahooニュース)

いわゆる電子タバコ(電気式加熱タバコ、e-cigarette)に関しては、まだ健康に関する影響はわかっていない。紙巻きタバコについても長期間の疫学調査などで、その悪影響が次第にはっきりしてきたが、せいぜい吸われ始めてから10年程度しか経っていない電子タバコの影響が解明されるのには時間がかかるだろう。

電子タバコの健康影響は未解明

WHO(世界保健機関)もその影響は未解明とし、禁煙を手助けする「ハーム・リダクション(harm reduction、嗜癖行動などを直ちに止められない場合の回避的手段)」としての機能も相反する研究結果があって結論は出せない、とする。ただし、タバコ会社は紙巻きタバコの代わりの商品として位置づけ、積極的に売り込みをかけていて注意が必要、と警告を発している。

 一方、電子タバコから出る煙には無視できない有害物質が含まれる、というデータもある(※1)。スイスのベルン大学の研究者がフィリップモリス社の電子タバコ「iQOS(マルボロ・レギュラー)」から出る煙の成分を分析したところ、紙巻きタバコに匹敵する有害物質が出ていた、と言う。WHOは「電子タバコも禁煙エリアでの使用は禁止すべき」としている。

電子タバコにはどんな「効果」があるか

 その電子タバコについて最近、興味深い研究結果が出た。

 英国の医学雑誌『British Medical Journal(BMJ)』に掲載された論文では、2014年から2015年にかけて米国の16万1054人を対象にして電子タバコの使用者の禁煙率(禁煙動機、禁煙継続3ヶ月)を調べている(※2)。その結果、現在、タバコを吸っている2万2548人のうち38.2%が、また最近タバコを止めた禁煙者2136人のうち49.3%が電子タバコを吸ったことがある、と回答した。

さらに、電子タバコの使用者は、使わない喫煙者に比べて15%、禁煙を試みる割合が高く、禁煙成功率は倍近く(8.2%vs4.8%)となっていることがわかった、と言う。この研究によれば、電子タバコの使用者増加は、集団レベルで禁煙率の増加に関係していることが示唆される。研究者は、電子タバコに関する規制などをする場合、こうした影響を考慮に入れる必要があるのではないか、と考えている。

電子タバコに対する各国の対応は様々だ。この論文を掲載した雑誌のある英国では、ハーム・リダクションとして電子タバコを利用すべき、という立場を取る研究者が多い。BMJ誌の解説にあるように、同じような結論を出した研究も散見される。一方、その考え方に懐疑的な米国などの国もある。

韓国ではすでに飽きられた電子タバコ

筆者は最近、韓国へタバコ対策に関する取材で行ったが、韓国ではすでに電子タバコのブームは過ぎ去り、ほとんどの喫煙者は紙巻きタバコに戻っていた。その理由は大きく三つあるようだ。まず、味わいや吸った感じが紙巻きタバコには遠く及ばない、つまり不味い、と答えた人が多い。さらに機器の持ち歩きを含めた充電の煩雑さ、そして最後になにしろ価格が高い、という理由だった。

これらの理由は技術的に解決される可能性が高いが、いずれにせよ電子タバコの健康への害はまだ十分に明らかにされていない。リチウムイオン電池の爆発事故も懸念される。電子タバコを吸うことで、タバコの不味さに改めて気付き、禁煙へ向かうのならいいのかもしれないが、青少年の影響なども含め、政策担当者は十分に吟味しながら検討していくことが重要だ。

※1:Ret Auer et al., “Heat-Not-Burn Tobacco Cigarettes:Smoke by Any Other Name.” JAMA Intern Med. May 22, 2017

※2:Shu-Hong Zhu, Yue-Lin Zhuang, Shiushing Wong, Sharon E Cummins, Gary J Tedeschi, “E-cigarette use and associated changes in population smoking cessation: evidence from US current population surveys.” the BMJ, 358, 26, July, 2017

※:念のため、この研究者は利益相反(COI)がないことを宣言している。ちなみに『BMJ』誌は『New England Journal of Medicine』や『The Lancet』に比肩する医学雑誌。

石田雅彦フリーランスライター、編集者

北海道生まれ、医科学修士(MMSc)、横浜市立大学・共同研究員(循環制御医学教室)。近代映画社を経て独立、醍醐味エンタープライズ(編プロ)代表。ネットメディア編集長、紙媒体の商業誌編集長など経験あり。個人としては自然科学から社会科学まで多様な著述活動を行っている。法政大学経済学部、横浜市立大学大学院医学研究科。著書に『恐竜大接近』(集英社、監修:小畠郁生)、『遺伝子・ゲノム最前線』(扶桑社、監修:和田昭允)、『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』(ポプラ社)、『季節の実用語』(アカシック)、『プレミアム戸建賃貸資産活用術』(ダイヤモンド社)、『おんな城主 井伊直虎』(アスペクト)など。

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