電子タバコの不都合な真実

日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

筆者は、日本で若い女性やおばさんがお店などで堂々とタバコを吸っている姿に初めて接したとき、非常にびっくりした。その当時の韓国では、女性がタバコを公の場で吸うことなど、想像だにできない時期であったからだ。
とはいえ、最近では韓国でも、若い女性が喫煙する姿はよく見かけるようになった。それでも韓国では、タバコに関しては依然として日本より厳しいのは事実である。韓国では、ビル全体が禁煙になっている「禁煙ビル」という制度があるほどだ。ビルが禁煙ビルに指定されると、そのビルは税金が軽減されるため、ビルオーナーはその制度を導入しようとする。また、韓国政府はタバコの価格を大幅に引き上げ、タバコの需要を抑制しようとしたり、タバコの弊害などについての広報活動も怠っていない。タバコにはガンなどを引き起こす有害物質が含まれていることが広く知られており、喫煙者のなかには禁煙を決心する人も増えている。しかし、なかなか禁煙に成功する人は少ない。

タバコの主要な成分は、ニコチンとタールがある。タールはわかりやすく言うと、タバコを吸う際に、歯を茶色にするヤニのことだ。タールにはそのような性質だけでなく、数百種類の発ガン物質が含まれていることでも知られている。それからニコチンだが、ニコチンには発ガン物質は含まれていないものの、ニコチンは神経系に対して強い毒性を持っている。また、ニコチンは非常に依存性が高くて、タバコをやめられない主な理由でもある。
このニコチンの中毒性に対して、タバコを一気にやめるのではなく、喫煙の回数を徐々に減らし、禁煙に誘導する「電子タバコ」が流行っていることを皆さんはご存知だろうか。

電子タバコの原理は単純である。ニコチンが入っている電子タバコの液体を加熱して気化し、その気体をタバコの煙の代わりに吸ったり、吐いたりするというものだ。電子タバコの種類は、大きく2つに分けられる。タバコの葉またはその成分を充電式の道具に装着して加熱し吸うものと、道具のなかに入っている液体を電気で加熱し、気体にしたものを吸うものである。普通のタバコを吸うときは、タバコに火をつけて、タバコの葉を燃やした煙を吸うが、電子タバコでは、火は使わず電気で液体を加熱し、気化されたその気体を吸う。
電子タバコが出現したのは2000年代前半で、中国で商品化されたという。その後、欧米を中心に徐々に市場が拡大し、その需要は増加の一途をたどっている。

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ところで、電子タバコは既存のタバコとはどのように違うだろうか。

ニコチンは、電子タバコの濃縮液体に入っているが、タバコと違って、液体の味にはいろいろな種類が存在し、嗜好によって味を選ぶことができる。それから、煙をどのくらい発生させるかも自由に調節できる。電子タバコは火を付けずに電気を使うので、充電しないといけない。すなわちバッテリーが必要である。それもバッテリーを毎日充電しないといけない。また、液体も補充しないといけない。電子タバコの価格は通常15万ウォンくらいするが、初期購入費用よりも維持費用のほうが高くなることも多いようだ。
それに電子タバコは、液体の種類を変えた場合、気化器という部品も変えないといけない。さらに、電子タバコはよく忘れ物をするので、それが結構ストレスになるらしい。

それでは、タバコの代わりに禁煙の第一歩として選択する、電子タバコの安全性についてはどうだろうか。

電子タバコの液体はグリセリン(VG)、プロピレングリコール(PG)、ニコチン、香料などで構成されている. このなかで、ニコチン以外はすべて食品添加剤をそのまま使っている。
しかし、米国のFDAで電子タバコの煙を調査した結果、煙から発ガン性物質が検出されたし、また毒性物質であるジエチレングリコールも検出された。 しかし、2011年に別の研究機関で電子タバコの煙を検査したところ、そのような物質は検出されなかったという別の報告もある。

米国のローズウェルパークガン機構の調査によると、電子タバコを15回吸った吸気にホルムアルデヒド0.2~5.61マイクログラムが入っていて、その量は既存のたばこの1本の9分の1、トルエンは0.02~0.63マイクログラムで、既存のタバコの120分の1であることがわかった。しかし、電子タバコを長期間使用した際の副作用については、まだ検証されたわけではない。

電子タバコは葉を燃焼せずに吸うため、タールなどの有害物質がほとんどなく、ガンや心筋梗塞のリスクは減るかもしれないが、専門家はそれでも慎重な態度を崩していない。

このように、電子タバコの有害性については、まだ結論に達していない。すなわち、電子タバコが安全だというデータは十分そろっていないし、中毒性を問題視する専門家も多い。

電子タバコのほとんどは、タバコの葉から抽出したニコチン濃縮液を使っている。そのため、電子タバコを吸っていても、結果はタバコとそれほど変わらないという主張もある。電子タバコにもニコチンがあって、中毒性があるため、電子タバコは喫煙の形態を変えただけで、禁煙にはならないという主張だ。
さらに、電子タバコにはカートリッジに吸入穴があり、綿についていたニコチンの液体が口中に吸い込まれる危険性もある。専門家は早急にこの問題を調べる必要があると指摘する。

最後に、電子タバコが抱えているもう1つの問題点は、自分がタバコをどれくらい吸ったかがわからないことだ。普通のタバコの場合は燃えるのが目に見えるし、本数で量がわかる。しかし、電子タバコはそれがわからないので、普通のタバコよりニコチンの量が増える可能性もあるとのことだ。

ところで、電子タバコが抱えている現実的な問題点を指摘したが、それにも関わらず、電子タバコの市場は成長を続けている。電子タバコのブランドは世界的に466もあるという。2016年の世界市場規模は30億ドルで、30年には170億ドルに成長することが予想されている。
喫煙者が禁煙を思い立ったときの第一歩としての電子タバコは有用であると見なされ、これだけ市場が大きくなってくると、その安全性を徹底的に検証する必要があるのではなかろうか。

(了)

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