「加熱式タバコ」と電子タバコを比べた最新研究

写真:筆者撮影

 また新たに加熱式タバコの危険性がわかった。英国のセント・アンドルーズ大学の研究者が英国の医学雑誌『BMJ』系の『Tobacco Control』誌に発表した論文(※1)によれば、ニコチン吸引器、ニコチン添加式電子タバコ(以下、電子タバコ)、加熱式タバコ、既存の紙巻きタバコの過去の研究データを比較し、発がん性を比べてみたところ、ニコチン吸引器<電子タバコ<加熱式タバコ<既存の紙巻きタバコの順でリスクが高かったという。

ニコチン伝送システムを比較

日本では医薬品医療機器法(旧薬事法)によって許可なくニコチンそのものを売買することはできないから、日本の電子タバコ用リキッドはニコチンが入っていないものがほとんどとなる。ネット上でニコチン添加リキッドを海外から取り寄せることは可能だが違法だ。先日も個人通販サイトが厚生労働省の指導で閉鎖された。

だが、加熱式タバコからはニコチンが出る。ニコチンそのものではなくタバコ葉を使うから、たばこ事業法でこちらは合法だ。

冒頭論文は英国の研究なので、電子タバコは英国で許可されているニコチン添加リキッドを使用するものとなる。また、ニコチン吸引器は日本では許可されていないが、英国では医薬品として認可されている。日本の禁煙治療で使われるニコチンパッチやニコチンガムのようなものと考えればいい。

この研究で使われた加熱式タバコのデータは、アイコスを作っているフィリップ・モリス・インターナショナルの研究者の論文(※2)から得ている。その論文はアイコスのプロトタイプモデル(THS2.2)から出た物質をもとにしているから、現在のアイコスとは違う。

冒頭の研究者は、こうしたニコチン伝送デバイスを紙巻きタバコと比較したというわけだ。一種のメタアナリシスで、各研究のデータから1パフ(タバコを1回吸うこと)と1パフごとの有害物質量、フィルターからの空気流入量による発がん性を通常の紙巻きタバコから換算し、ニコチンとその他の有害物質に分け、ニコチン吸引器、電子タバコ、加熱式タバコで比較評価した。

ニコチン吸引器からニコチン以外の物質が微量だが出ていて驚くが、電子タバコと加熱式タバコからはカルボニル基(carbonyl group)系の有害物質が出ている。この論文の研究者は、米国環境保護庁(EPA)などの環境評価指標(※3)から、これら化学物質を長期間、吸引する発がんリスクとの毒性物質分析や疫学的な関連をみた。

そして、1平方メートルあたり1μグラムの濃度の発がん性物質に毎日連続してさらされる生涯発がんリスク(unit risk)を求めて1ミリリットルあたりに換算し直し、この研究で検査した電子タバコや加熱式タバコのエアロゾルや蒸気から混合して出てくる物質の発がん性を調べたと言う。2008年から2014年の紙巻きタバコの喫煙本数を22カ国から算出し、紙巻きタバコの平均的な使用量を1日15本とした。

 電子タバコは従来の紙巻きタバコの研究で使われた1日あたりの吸う本数という基準が通用しないため、電子タバコでは1日に吸い込む蒸気の量を30リットルにして調べることにしたようだ。電子タバコの吸引量は紙巻きタバコで煙を吸い込む量の約4倍になるが、これは英国で認可されているニコチン吸引器使用時における吸引量と大差ない。一方、加熱式タバコは、日本とポーランドの研究から使用量を1日あたり10スティックとした。

アセトアルデヒドや発がん性物質が

こうしてニコチン吸引器、電子タバコ、加熱式タバコ、紙巻きタバコから出る発がん性物質を含む化合物の量を評価した。それによると、いずれの物質も電子タバコより加熱式タバコのほうがより多く出ていた(下の表)。

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いずれの値も平均濃度(μグラム/ミリリットル)。アセトアルデヒドはニコチンの中毒作用を強化し、毒性を持つ発がん性物質。ホルムアルデヒドも毒性を持ち、アレルギー源の一つで発がん性が強く疑われている。アクリロニトリルも毒性を持ち、日本では劇物指定。NNNはN’-ニトロソノルニコチンで発がん性が疑われ、NNKは4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノンで強い発がん性がある。NRは検出なし。Via:William E Stephens, “Comparing the cancer potencies of emissions from vapourised nicotine products including e-cigarettes with those of tobacco smoke.” BMJ, Tobacco Control, 2018より引用改編。

この結果により、加熱式タバコの発がん性は、紙巻きタバコと比べると確かに1桁から2桁低いことがわかったが、電子タバコよりも高かった。具体的には、生涯発がんリスク(unit risk)は、ニコチン吸引器を1とすると紙巻きタバコが約2700、加熱式タバコが64、電子タバコが11であり、紙巻きタバコを1とすると加熱式タバコのリスクは0.024、電子タバコが0.004となった。

発生物質でみると、紙巻きタバコの強力な発がん性は言うまでもないが、加熱式タバコからはアセトアルデヒドと発がん性物質が疑われるN’-ニトロソノルニコチンや強い発がん性物質4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン、鉛やヒ素も含まれていることがわかる。

この研究に用いた加熱式タバコは、単一メーカーの現在の汎用製品ではなくプロトタイプであり、加熱式タバコの製造メーカーの研究者による論文から基礎データを得ている。ただ、自社製品に対するデータからも有害物質が出ていたのは事実だろう。

同社製の最新製品でどうなっているかは不明だが、新世代のアイコスが出るという話もある。基本的にニコチンを喫煙者に伝送しなければならないので内部の機構もそう変えられず、出てくる物質もプロトタイプと差はないのかもしれないが、これは想像だ。

この研究者は、電子タバコのデータから想定外の多種多様な物質が出ていると言っていて、従来の紙巻きタバコから発生する物質とこれらを単純に比較できない。研究者は暫定的な結果としているが、加熱式タバコにせよ電子タバコにせよ、今後より広汎な製品の詳細なデータが必要だろう。

英国では公衆衛生当局が、いわゆるハームリダクション(より害の少ないものを許容する方法)の観点から、紙巻きタバコより電子タバコのほうが「まだマシ」という立場に立っている。ちなみに冒頭論文の著者は利益相反のないことを宣言している。ニコチンが添加された電子タバコのユーザーが多い英国でも、加熱式タバコはこれから問題視されてくるだろう。

いずれにせよ、英国と事情が違い、日本では加熱式タバコがまさに争点だ。日本たばこ産業(JT)のプルーム・テックは先行のアイコスと機構が違うが、今回こうした研究が出てきたことで機構の違いも含め、加熱式タバコについての議論がさらに深まると考えられる。

※1:William E Stephens, “Comparing the cancer potencies of emissions from vapourised nicotine products including e-cigarettes with those of tobacco smoke.” BMJ, Tobacco Control, Vol.27, Issue1, 2018

※2:Jean-Pierre Schaller, et al., “Evaluation of the Tobacco Heating System 2.2. Part 3: Influence of the tobacco blend on the formation of harmful and potentially harmful constituents of the Tobacco Heating System 2.2 aerosol.” Regulatory Toxicology and Pharmacology, Vol.81, S48-S58, 2016

※3:国際標準化機構(International Organization for Standardization、ISO)の機械喫煙法(ISO法)やカナダ保健省の機械喫煙法(HCI法)など。

石田雅彦フリーランスライター、編集者

北海道生まれ、医科学修士(MMSc)、横浜市立大学・共同研究員(循環制御医学教室)。近代映画社を経て独立、醍醐味エンタープライズ(編プロ)代表。ネットメディア編集長、紙媒体の商業誌編集長などの経験あり。個人としては自然科学から社会科学まで多様な著述活動を行う。法政大学経済学部卒、横浜市立大学大学院医学研究科修了。著書に『恐竜大接近』(集英社、監修:小畠郁生)、『遺伝子・ゲノム最前線』(扶桑社、監修:和田昭允)、『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』(ポプラ社)、『季節の実用語』(アカシック)、『プレミアム戸建賃貸資産活用術』(ダイヤモンド社)、『おんな城主 井伊直虎』(アスペクト)など多数。

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